2015年10月27日火曜日

2015年10月「Next Medical Device Innovation
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉


Global Topics
「米国における体外臨床検査等に関する新しい規制に向けて」 
 
連邦議会下院のエネルギー・通商委員会では、体外臨床検査(In Vitro Clinical Tests)の新しい規制に関する法案審理に向けて、資料を公表しました。20158月に米国の食品医薬品局(FDA)は、従来規制権限の行使を控えていた薬事未承認検査法(Laboratory Developed Tests, LDTs)について体外診断検査薬と同じような規制を及ぼす内容のドラフト・ガイダンスを公表していたところ、今回の法案には重要な適用除外が設けられています。すなわち、本法案では、保険や非臨床目的の遺伝子検査は適用除外とされており、先に公表されているドラフト・ガイダンスの適用範囲をむしろ限定する内容となっている。
内容として興味深いのは、①体外診断検査薬(In Vitro Diagnostics)ではなく体外臨床検査(In Vitro Clinical Tests)という言葉が使われていること、②対外臨床検査について3つのリスク分類を設けていること、③高リスクと中リスクの検査については、FDAは市販前承認を行うものの、中リスクの検査についてはFDAが第三者認証による審査を認めることができること、④低リスクの検査については市販前通知のみで構わないこと、⑤検査の変更や実験・研究用の検査、不具合報告に関する規制も含まれていること、の諸点です。
日本では、健康医療戦略室を事務局として「ゲノム医療実現推進協議会 中間とりまとめ」が2015730日にとりまとめられており、医師を介さないで提供される遺伝子検査の規制などが議論されて真っ最中です。アメリカ合衆国の体外臨床検査に関する新しい規制に向けた議論は、日本での議論にも相当な影響を及ぼす可能性があります。薬事未承認検査法(Laboratory Developed Tests, LDTs)の規制については産業界が強く批判しているところ、連邦議会下院における今後の法案審理には注目が集まるはずです。

Resource: Zachary Brennan, House Committee Floats Draft Bill for New FDA Regulations of In Vitro Clinical Tests, Oct. 23, 2015, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/10/23/23470/House-Committee-Floats-Draft-Bill-for-New-FDA-Regulations-of-In-Vitro-Clinical-Tests/; Allyson B. Mullen, IVD企業が現在直面している4つの規制に関する課題, MEDTEC Japan Online, Aug. 18, 2015, available at http://www.medtecjapan.com/ja/news/2014/07/24/1097
 
Domestic Topics
「「平和と健康のための基本方針」(案)が公表される-国際保健の課題解決による成長」
 
健康・医療戦略本部決定として、「平和と健康のための基本方針」(案)が公表されました。
この基本方針(案)によれば、今後、医療機器を含む健康・医療分野の国際展開は、国際保健という大きな枠組みのもとで進められていくことがより鮮明になったといえるでしょう。基本方針によれば、「全ての人々の健康が保障され,感染症などの公衆衛生危機・災害などの外的要因にも強い社会の構築を実現するために、感染症の予防・対策強化はもとより、保健システム全体の強化を図る」ことが政策目標とされています。これだけでも相当に大きな目標ですが、究極的な目標は、全ての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の実現とされています。

アメリカ合衆国や英国は、国際保健の枠組みのなかで貿易の促進を図ろうとしてきました。その内容は、村田学術振興財団の報告書「健康・医療分野の国際展開における戦略的外交と法政策」にすでにまとめられておりますので、ご参照ください(ANNUAL REPORT OF THE MURATA SCIENCE FOUNDATION 2015.6 No.29)。 
今後、グローバルな観点から医療機器政策を検討する際には、国際保健外交の進展を踏まえる必要があります。
 
A Selected Activity from the University of Tokyo
「「HIVから公衆衛生を考える 若い世代と専門家との対話に基づく提言」のフォローアップ座談会を開催-HIV予防のための行動変容を促すために」
 

20151021日、東京大学では「HIVから公衆衛生を考える 若い世代と専門家との対話に基づく提言」(2015412日開催)のフォローアップ座談会が開催されました。事務局の他、コアメンバーとして関わってくださった方々(高校生、大学生、大学院生、関係各省の方を含む)の中から10名が集まってくださいました。当日は、各参加者からシンポジウムにかかわった感想、シンポジウム後に起こったこと、今後の活動と計画についてのコメント、どのような形であればこのような活動に今後もかかわれるのかなどについて、忌憚ないご意見を頂戴しました。
 
学校教育に限らず、身近な気づきや学びによってHIV予防への関心が高まったり、HIV感染や性的マイノリティに関連して生じる偏見を是正しようという思いが芽生えることは大変貴重なことです。広い意味での教育は、HIV予防にとっていわば「ワクチン」のような役割を果たす可能性があります。ワクチン一般について申し上げれば、一定の副反応は避けられないかもしれませんし、適切な接種でなければ問題が起こることもあります。それでも、学校教育だけでなくそれ以外の学びによって、HIV予防について人々の行動変容が促される可能性はやはり大いにある、と思われます。他方において、教育だけの寄与に頼ることは危険です。HIV予防を進めるための方策については今後も包括的に議論し、その進捗を見守っていく機会があってもよい、われわれはそのように考えています。
高校生、大学生、そして大学院生のように若者が、HIV予防を自らの問題だと考えることができ、自分たちの知見を海外、とりわけアジアの若者と共有していけるよう、われわれとしてはできる限り協力して参りたいと思います。座談会の内容を以下に報告します。
 

 <1.シンポジウムの総括>
2015412日のシンポジウムでは約100名の参加者とともに、HIV/エイズについて疾病対策の問題にとどまらず、より広く公衆衛生や国際保健の問題として捉え直し、我が国においても議論を深めるために開催されました。今回は、東京大学のリーディング大学院プログラムGSDMの学生が主体的に企画運営を主導し、将来グローバルリーダーとなりうる選ばれた高校生、大学生、大学院生を交えて準備を進め、厚生労働省、文部科学省、外務省の多大なご協力のもとで開催することができました。

冒頭、GSDMプログラムコーディネーターの城山教授、駐日米国大使のキャロライン・ケネディ閣下、ランセット委員会委員の安部昭恵氏からご挨拶を頂戴し、基調講演ではピーター・ピオット教授とクリスティーナ・ぺニャ氏からHIV対策についてのプレゼンテーションを受けました。HIVがない世界からHIVとともに生きる世界への変容に対応するためには、我々自身がその重大性を認識しなければならず、まずはHIVの現実を直視し、語りあうことからはじめようというのが基調講演の骨子でした。

パネルディスカッションでは、AIDS研究の専門家である岩本愛吉先生からはアジアにおけるHIV問題の特性について考え直すよい機会である旨のお話を、OECDの村上友紀氏からはHIV向け予算や寄付の動向についてのお話をいただきました。

グループディスカッションは、慶應大学大学院/AO義塾代表の斎木陽平氏に司会を務めてもらい、高校生と大学生、そして大学院生にHIV対策について熟議しました。パネリストからコメントをいただくことで、このシンポジウム後もさらに議論を深める必要性を認識するきっかけとなりました。

閉会の挨拶は、丸山則夫氏(外務省アフリカ部長[大使])から頂戴しました。次回のTICADはアフリカではじめて開催される予定とのことで、HIV対策に日本の若者の知見が活かされればという結びとなりました。

<2.シンポジウム後の活動>

・パネリストへの御礼と今後のご協力について依頼
シンポジウムの簡易な報告をウェブサイトに掲載
村田学術振興財団から「健康・医療分野の国際展開における戦略的外交と法政策」が公表

<3.今後の方針(案)>
・毎年、最低でも1回、関連ワークショップを開催して次年度に向けた目標と活動の進捗を確認する会を開催しきたいと考えています(たとえば、世界エイズデーの週またはHIV検査普及週間など)。その際、学内関係者だけでなく高校生や大学生はもちろん、関係各省の方にも可能な範囲でご出席いただき、政策等について簡単にお話しいただければと思っております。
上記イベントに関連した勉強会/講演会
・関係各省での少人数勉強会
・東京大学での50名規模を想定した勉強会(ご講演・質疑応答・共同ワークなど)
・東大のブログ等でエイズ予防により組む方々のインタビューを掲載(頻度未定、本日参加者から順次、学生主導インタビューも検討)
・学生の海外セッション等への派遣(機会があり、こちらで予算措置ができれば) 
                   [photo:今 祥雄]

 
 
医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。
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東京大学政策ビジョン研究センター
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2015年10月5日月曜日

20159月「Next Medical Device Innovation
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉



Global Topics
FDAの科学委員会における議論-医療分野のイノベーションを促進する新しい方法を模索する」 

米国の連邦医薬食品局(FDA)の科学委員会は、2007年の報告書が公表されてから8年後、自らの科学的基礎の脆弱性と科学的バックグラウンドを持つ人材不足、そして救命のための新しい治療法の迅速導入を可能にする能力不足に着目するように求め、サブ委員会として”Science Looking Forward Subcommittee”を設置しました。同委員会の任務は、科学技術における新しいおよび将来のトレンドをどのように追いかけるのか、外部グループとの連携をどのように改善するのか、そして科学という営みを支援する方法について言及することにあります。

そのなかで特に注目に値するのは、優秀な人材の育成と採用に加えて今後重要とされている課題です。これまでFDAは、2007年の報告書で指摘されていた事項について、さまざまな形で変化してきました。具体的には、レギュラトリー・サイエンスや医療情報、テロ対策などに関する部局の新たな設置、より大きな権限を連邦議会から獲得すること、幹細胞、3Dプリンティング、予測中毒学、ゲノム・シークエンスなどの新しい技術に関するイニシャティブの開始、NIHと共同でPrecision Medicine Initiativeの推進、レギュラトリー・サイエンスの推進、市販後調査の拡大などを挙げることができます。

しかしながら、優秀な人材の育成と採用についてはさらに必要だと言及されており、新しいバイオマーカーの評価と適格性に関するガイドラインの作成、臨床試験ネットワークとマスタープロトコールの利用促進、新しい医療分野の技術に対する迅速承認のための外部有識者の利用拡大、安全性と有効性の評価のためのデータ・マイニングと分析ツールが残された課題とされています。この残された課題こそ、日本にとっても注目に値する領域です。

日本では医療機器分野について、政策的にもはや手を尽くすべきところが見つからないという雰囲気がありますが、アメリカ合衆国ではそのような状況にありません。いわゆる”21st Century Cures Act”が審議されている真っ最中であり、今回紹介したFDAの科学委員会での議論も、医療機器分野における課題が残されていることを示唆しています。

Resource: Zachary Brennan, FDA Science Board Calls on Agency to Find New Ways to Stimulate Biomedical Innovation, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/09/21/23241/FDA-Science-Board-Calls-on-Agency-to-Find-New-Ways-to-Stimulate-Biomedical-Innovation/

 
Domestic Topics
「京都で国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)会議が開催される」

2015915日から17日にかけて、京都で国際医療機器規制当局フォーラム(International Medical Device Regulators Forum, IMDRF)会議が開催されました。日本は、2015年の議長国となっていますが、IMDRF 2020 年までの活動方針を明確にした IMDRF Strategic Plan 2020 IMDRF 戦略 2020 )の議論を主導し、その結果、本戦略の策定に至った模様です。

IMDRFは、医療機器規制の国際調和を進めるための枠組みとして 2012 年に設立されました。GHTFに代わる枠組みとして、医療機器規制におけるガイダンスの作成と各国規制への取込みを推進しています。IMDRF のメンバーは、日本、米国、EU、カナダ、オーストラリア、ブラジル、中国、ロシアの規制当局から構成されています。

厚生労働省は、医療機器規制の国際調和に積極的な態度を示しています。公表資料によれば、2015626日に厚生労働省が策定した国際薬事規制調和戦略に盛り込まれていた内容をベースに、IMDRF戦略2020は策定されており、引き続き、IMDRF をはじめとする国際規制調和の枠組みにおける議論に積極的に貢献する意向が示されています。

医療機器規制の国際調和は、医薬品のように一筋縄ではいかない側面を不可避的に持っています。アジアにおける医療機器規制の調和を主導するAHWPへの影響も踏まえ、漸進的に国際調和が進むことを願ってやみません。

 
A Selected Activity from the University of Tokyo
「テクノロジーを活用した社会課題を解決する行動変容の可能性を考える」

東京大学では、テクノロジーの発展を踏まえて社会課題の解決のための行動変容の価値を再確認するとともに、行動変容を促すツールやインセンティブについて検討する試みが進みつつあります。

近年、情報関連のテクノロジーの発展は目覚ましく、以前にもましてデータの収集や活用が容易になりつつあります。健康・医療分野でいえば、携帯電話や時計などにアクセサリーを組み合わせたモバイルテクノロジーを駆使して、健康寿命の延伸のためにヘルスデータの収集や活用が進んでいます。従来、ヘルスデータの収集は医療機関でバラバラに行われるのが通常であったところ、医療機関外でも比較的容易に、医療目的だけでなく健康や美容などさまざまな目的でヘルスデータを収集できるようになりました。また、個別のデータだけでなくさまざまなデータを組み合わせて分析することにより、これまでわからなかった知見が明らかになりつつあります。その結果として、疾病の予防や健康の増進のために必要な行動は、従来にもましてエビデンスベースの議論が可能になってきました。

他方、データの収集や活用がより容易かつ多様になる中で、社会課題における行動変容の価値は高まっているように思われます。たとえば、医療費の適正化を挙げることができます。政府で進められている財政健全化ないし適正化において、医療・介護分野の重要性は極めて高いことはいうまでもありません。高齢化の進展に伴い社会保障給付が増加し続けており、高齢者ほど給付の公費負担割合が高い制度設計とあいまって、社会保障の公費依存度が高まってきています。従来、医療費の適正化については、医療提供側の行動変容を促すために診療報酬等の金銭的なインセンティブが駆使されてきました。他方、行動変容が期待されているのは医療提供側ばかりではなく、患者や潜在的な患者となるその他の国民も、健康寿命を延伸するための行動がより求められてきます。そのため、今後は金銭的なインセンティブだけでなく、何が医療提供や受診行動の変容を促すのかを解明することの価値が高まっていくものと考えられます。

上記はあくまで事例に過ぎず、他にもテクノロジーを活用して行動変容なしに解決できないのではないか、と考えさせられる社会課題はあります。二酸化炭素排出削減、省エネ、感染症予防、グローバルヘルスへの投資、少子化など枚挙に暇がありません。

今後、医療機器ユニットでは、医療機器の裾野が情報関連機器を介して広がりつつあることを念頭に、東京大学公共政策大学院の大西昭郎特任教授などと協力して、この分野の研究を進めて参りたいと思います。

 

医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。


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医療機器の開発に関する政策研究ユニット
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