2015年10月5日月曜日

20159月「Next Medical Device Innovation
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉



Global Topics
FDAの科学委員会における議論-医療分野のイノベーションを促進する新しい方法を模索する」 

米国の連邦医薬食品局(FDA)の科学委員会は、2007年の報告書が公表されてから8年後、自らの科学的基礎の脆弱性と科学的バックグラウンドを持つ人材不足、そして救命のための新しい治療法の迅速導入を可能にする能力不足に着目するように求め、サブ委員会として”Science Looking Forward Subcommittee”を設置しました。同委員会の任務は、科学技術における新しいおよび将来のトレンドをどのように追いかけるのか、外部グループとの連携をどのように改善するのか、そして科学という営みを支援する方法について言及することにあります。

そのなかで特に注目に値するのは、優秀な人材の育成と採用に加えて今後重要とされている課題です。これまでFDAは、2007年の報告書で指摘されていた事項について、さまざまな形で変化してきました。具体的には、レギュラトリー・サイエンスや医療情報、テロ対策などに関する部局の新たな設置、より大きな権限を連邦議会から獲得すること、幹細胞、3Dプリンティング、予測中毒学、ゲノム・シークエンスなどの新しい技術に関するイニシャティブの開始、NIHと共同でPrecision Medicine Initiativeの推進、レギュラトリー・サイエンスの推進、市販後調査の拡大などを挙げることができます。

しかしながら、優秀な人材の育成と採用についてはさらに必要だと言及されており、新しいバイオマーカーの評価と適格性に関するガイドラインの作成、臨床試験ネットワークとマスタープロトコールの利用促進、新しい医療分野の技術に対する迅速承認のための外部有識者の利用拡大、安全性と有効性の評価のためのデータ・マイニングと分析ツールが残された課題とされています。この残された課題こそ、日本にとっても注目に値する領域です。

日本では医療機器分野について、政策的にもはや手を尽くすべきところが見つからないという雰囲気がありますが、アメリカ合衆国ではそのような状況にありません。いわゆる”21st Century Cures Act”が審議されている真っ最中であり、今回紹介したFDAの科学委員会での議論も、医療機器分野における課題が残されていることを示唆しています。

Resource: Zachary Brennan, FDA Science Board Calls on Agency to Find New Ways to Stimulate Biomedical Innovation, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/09/21/23241/FDA-Science-Board-Calls-on-Agency-to-Find-New-Ways-to-Stimulate-Biomedical-Innovation/

 
Domestic Topics
「京都で国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)会議が開催される」

2015915日から17日にかけて、京都で国際医療機器規制当局フォーラム(International Medical Device Regulators Forum, IMDRF)会議が開催されました。日本は、2015年の議長国となっていますが、IMDRF 2020 年までの活動方針を明確にした IMDRF Strategic Plan 2020 IMDRF 戦略 2020 )の議論を主導し、その結果、本戦略の策定に至った模様です。

IMDRFは、医療機器規制の国際調和を進めるための枠組みとして 2012 年に設立されました。GHTFに代わる枠組みとして、医療機器規制におけるガイダンスの作成と各国規制への取込みを推進しています。IMDRF のメンバーは、日本、米国、EU、カナダ、オーストラリア、ブラジル、中国、ロシアの規制当局から構成されています。

厚生労働省は、医療機器規制の国際調和に積極的な態度を示しています。公表資料によれば、2015626日に厚生労働省が策定した国際薬事規制調和戦略に盛り込まれていた内容をベースに、IMDRF戦略2020は策定されており、引き続き、IMDRF をはじめとする国際規制調和の枠組みにおける議論に積極的に貢献する意向が示されています。

医療機器規制の国際調和は、医薬品のように一筋縄ではいかない側面を不可避的に持っています。アジアにおける医療機器規制の調和を主導するAHWPへの影響も踏まえ、漸進的に国際調和が進むことを願ってやみません。

 
A Selected Activity from the University of Tokyo
「テクノロジーを活用した社会課題を解決する行動変容の可能性を考える」

東京大学では、テクノロジーの発展を踏まえて社会課題の解決のための行動変容の価値を再確認するとともに、行動変容を促すツールやインセンティブについて検討する試みが進みつつあります。

近年、情報関連のテクノロジーの発展は目覚ましく、以前にもましてデータの収集や活用が容易になりつつあります。健康・医療分野でいえば、携帯電話や時計などにアクセサリーを組み合わせたモバイルテクノロジーを駆使して、健康寿命の延伸のためにヘルスデータの収集や活用が進んでいます。従来、ヘルスデータの収集は医療機関でバラバラに行われるのが通常であったところ、医療機関外でも比較的容易に、医療目的だけでなく健康や美容などさまざまな目的でヘルスデータを収集できるようになりました。また、個別のデータだけでなくさまざまなデータを組み合わせて分析することにより、これまでわからなかった知見が明らかになりつつあります。その結果として、疾病の予防や健康の増進のために必要な行動は、従来にもましてエビデンスベースの議論が可能になってきました。

他方、データの収集や活用がより容易かつ多様になる中で、社会課題における行動変容の価値は高まっているように思われます。たとえば、医療費の適正化を挙げることができます。政府で進められている財政健全化ないし適正化において、医療・介護分野の重要性は極めて高いことはいうまでもありません。高齢化の進展に伴い社会保障給付が増加し続けており、高齢者ほど給付の公費負担割合が高い制度設計とあいまって、社会保障の公費依存度が高まってきています。従来、医療費の適正化については、医療提供側の行動変容を促すために診療報酬等の金銭的なインセンティブが駆使されてきました。他方、行動変容が期待されているのは医療提供側ばかりではなく、患者や潜在的な患者となるその他の国民も、健康寿命を延伸するための行動がより求められてきます。そのため、今後は金銭的なインセンティブだけでなく、何が医療提供や受診行動の変容を促すのかを解明することの価値が高まっていくものと考えられます。

上記はあくまで事例に過ぎず、他にもテクノロジーを活用して行動変容なしに解決できないのではないか、と考えさせられる社会課題はあります。二酸化炭素排出削減、省エネ、感染症予防、グローバルヘルスへの投資、少子化など枚挙に暇がありません。

今後、医療機器ユニットでは、医療機器の裾野が情報関連機器を介して広がりつつあることを念頭に、東京大学公共政策大学院の大西昭郎特任教授などと協力して、この分野の研究を進めて参りたいと思います。

 

医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。


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