2015年9月16日水曜日

2015年9月「Next Medical Device Innovation」臨時号
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉

こんにちは。
今回は臨時号として、青山学院大学法学部准教授/東京大学公共政策大学院特任准教授 佐藤智晶先生の論文が英文ジャーナルvol.12に掲載されましたのでご紹介いたします。                          [photo : 柏木 龍馬]


【英文ジャーナルvol.12 佐藤智晶先生掲載論文】
『Medical innovation through investment in health』

下記をご参照ください。

https://docs.google.com/viewer?a=v&pid=sites&srcid=ZGVmYXVsdGRvbWFpbnxhbWVyaWNhbmxhd2F0YW95YW1hZ2FrdWludW5pdnxneDo2OTAzZTk3ODY0MGFjOGM5





医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。



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東京大学政策ビジョン研究センター
医療機器の開発に関する政策研究ユニット
アカデミック・コミュニケーション

2015年9月4日金曜日

2015年8月「Next Medical Device Innovation」
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉


●医療分野の研究開発に関する新たな取り組みに向けて


【Global Topics】

「FDAの2016年度版審査料の行方」 
FDAは、実のところ連邦法に基づいて市販前承認等の審査に関する費用をメーカーから徴収しており、これによって審査パフォーマンスについてはメーカーや業界、さらには連邦議会によるチェックアンドバランスが実現されている。アメリカでは医薬品については1992年、医療機器については2002年に審査料(user fee)制度が導入されました。

2016年度版の審査料は、およそ下記のようになっています。
【医薬品】
新医薬品(臨床データ付)237万4,200ドル(約2億9,000万円)※日本の約12倍
新医薬品(臨床データなし)118万7,100ドル(約1億4,700万円)
新医薬品(補足・臨床データ付)118万7,100ドル(約1億4,700万円)
【医療機器】
市販前承認 26万1,388ドル(約3,200万円)※日本の約3倍
510K(市販前届出) 5,228ドル(約67万円)

日本のPMDAでも審査等にかかる手数料が決まっていますが、単に額面だけではなく決め方や決めた後のパフォーマンスレビューの仕方、さらにはパフォーマンスの更なる改善などの方向性について、アメリカ合衆国とどこが似ていてどこが違うのかについては十分に検討する必要があるでしょう。

Resource: Michael Mezher, FDA Unveils User Fee Rates for FY2016, Aug. 4, 2015, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/08/04/22960/FDA-Unveils-User-Fee-Rates-for-FY2016/


【Domestic Topics】

「保健医療2035シンポジウム開催される」
2015年8月24日、厚生労働省の主催により、保健医療2035シンポジウムが開催されました。急激な少子高齢化や医療技術の進歩など医療を取り巻く環境が大きく変化する中で、2035年を見据えた保健医療政策のビジョンとその道筋を示すため、国民の健康増進、保健医療システムの持続可能性の確保、保健医療分野における国際的な貢献、地域づくりなどの分野における戦略的な取組に関する検討を行うことを目的として、厚生労働省が懇談会を設けたのがこのシンポジウムにつながっています。
人々が世界最高水準の健康、医療を享受でき、安心、満足、納得を得ることができる持続可能な保健医療システムを構築し、我が国及び世界の繁栄に貢献するということがゴールに据えられている保健医療2035は、公平・公正(フェアネス)、自律に基づく連帯、日本と世界の繁栄と共生の3つを基本理念として、保健医療の価値を高める、主体的選択を社会で支える、日本が世界の保健医療を牽引する、という3つをビジョンとしています。
ビジョン実現のためのガバナンス改革にまで踏み込んだ報告書は、厚生労働省の懇談会による報告書とは思われないほど包括的かつ長期的視野に立ったものです。ひっ迫する医療財政や超高齢化社会のような難しい課題に直面していると、どうしても後ろ向きな議論に終始してしまいがちになりますが、塩崎厚生労働大臣が指摘しているように、「いかに保健医療システムの役割を発展させていくのかという観点を基本に、前向きかつ建設的に、そして何よりも創造的な議論」が今の社会では求められているように思われます。


【A Selected Activity from the University of Tokyo】

「医療分野の研究開発に関する新たな取り組み」

2015年8月18日、東京大学政策ビジョン研究センター・政策シンクネット主催国際シンポジウム「第66回GSDMプラットフォームセミナー 医療分野の研究開発に関する新たな取り組み」が開催されました。この国際シンポジウムは、医療における研究開発の新たな展開と臨床現場での研究開発などについて、その社会的な価値も踏まえながら、これらが医療をよりよいものに変えてゆく可能性について議論を深めるために開かれたものです。日米欧の産業界、大学や研究開発機関などのアカデミア、政府機関から第一人者の方々を交え、医療分野の研究開発に向けた官民協働、リサーチ・インテグリティの確保、さらには研究から実用化までのスピードアップなどについて、グローバルな視野で議論することができました。以下、開催報告として概要を説明します。


【主催と共催】
このシンポジウムは、東京大学政策ビジョン研究センターと政策シンクネットが主催し、政策ビジョン研究センター内の医療機器ユニットと政策シンクネットが協力して担当しました。共催には、医療分野の研究開発における人材育成や国際展開についても、議論が深まることを期待して、東京大学 Global Leader Program for Social Design and Management (GSDM)と明治大学国際総合研究所 (MIGA)に加わっていただきました。
【背景】
医療における技術革新は広範囲に進展していますが、その原動力となる研究開発においても大きな変革が起きつつあります。具体的にいえば、個別化医療や精密医療といった観点から、個人に由来するいわゆる「ビッグデータ」を取り扱う研究やそれらの活用が盛んになってきました。また、医療の分野での研究開発に極めて大きな役割を果たす臨床研究や治験についても、その効率性や効果の観点や、リサーチ・インテグリティさを確保する観点から検討が加えられつつあります。欧米では、透明性を高めて被験者を保護するとともに、より効果的で効率的な実施に向けた議論が急ピッチで進行中です。オープンイノベーションや産学連携といったキーワードのもとで、産業界、アカデミア、そして研究機関における研究の在り方について、新たな展開が始まりつつあります。さらに日本では、2015年4月1日付で国立研究開発法人日本医療研究開発機構が発足しました。日本版のNIHを念頭に置いて長らく議論され、ようやく設立された日本医療研究開発機構の発足は、日本における医療分野の研究開発の行方を大きく変える第一歩といえるでしょう。

【第1セッション「日本における新たな取り組み」】
末松誠先生(日本医療研究開発機構 理事長)は、日本医療研究開発機構のミッションと展望と題して、難病治療のインフラストラクチャー整備等について話されました。
松本洋一郎先生(理化学研究所 理事)は、基礎研究から臨床研究へと題して、日本では臨床研究が比較的少ないこと、日本医療研究開発機構への期待として、治験実施側のネットワークを構築し、効率性、リサーチ・インテグリティ、競争力を強化すること、さらには理研でトランスリレーショナルサイエンスを推進し、日本医療研究開発機構の役割に貢献していくことについて言及しました。
永井良三先生(自治医科大学 学長、政策ビジョン研究センター 顧問)は、臨床現場での研究開発と題して、東京大学における産学連携が可能になるまでの歴史的経緯や今後の展望について話されました。
森和彦先生(厚生労働省医薬食品局審査管理課 課長)は、医療・医薬品行政と研究開発と題して、医薬品開発に多額の資金が必要になっていることをベースにして、先駆け審査指定制度、クリニカル・イノベーション・ネットワーク構想、レギュラトリーサイエンス・イニシャティブの3つについて詳しく話されました。
パネルディスカッションでは、パネリストに江崎禎英先生(経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課 課長)と松田譲先生(文部科学省革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)ビジョナリーリーダー、 公益財団法人加藤記念バイオサイエンス振興財団 理事長)を加えて、モデレーターの鈴木寛先生(東京大学公共政策大学院 教授)がリサーチ・インテグリティ、人材育成、難病対策、Under the one roofで産官学の協力、個別化医療などのキーワードで新しい医療が生み出されうる環境の整備について議論を深めました。


【第2セッション「臨床研究をめぐる国際的な潮流」】
David Epstein 先生(Pharmaceuticals Division Head, Novartis AG)は、医療活動の変化とイノベーションと題して、イノベーションの必要性、ノバルティスのイノベーションに対する取組み、デジタル技術の可能性、患者さんのためにという諸点について話されました。
野木森雅郁先生(アステラス製薬 代表取締役会長)は、オープンイノベーションの加速に向けと題して、創薬環境の変化、創薬連携の必要性、オープンイノベーションを活用した事例、新しい産学官連携に向けて官学への期待、業界への期待を話されました。
中尾浩治先生(テルモ 代表取締役会長、一般社団法人医療機器産業連合会 会長)は、医療機器開発のフロンティアと題して、医療機器の特性を踏まえた事業化とイノベーション教育の重要性について話されました。
パネルディスカッションでは、Bruce Goodwin先生 (President, Janssen Pharmaceutical KK, Vice Chair, PhRMA)に加わっていただき、モデレーターの宮田満先生(日経BP社 特命編集委員)が患者中心の研究開発の在り方や、リサーチ・インテグリティの啓発、産学連携の強化、高齢者医療などの日本のポテンシャルについて議論をリードしました。


【第3セッション「全体の総括、今後の展望」】
武田俊彦先生(厚生労働省大臣官房審議官(医療保険担当))は、医療分野の研究開発の展望と題して、厚生労働省の中長期的視点に立った社会保障政策、研究開発の促進、保険償還価格におけるイノベーションの評価の3点について話されました。
まとめのパネルディスカッションでは、武田俊彦先生(厚生労働省大臣官房審議官(医療保険担当))、江崎禎英先生(経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課 課長)、鈴木寛先生(東京大学公共政策大学院・教授)、David Epstein先生 (Pharmaceuticals Division Head, Novartis AG)、Bruce Goodwin先生 (President, Janssen Pharmaceutical KK, Vice Chair, PhRMA)、松本洋一郎先生(理化学研究所 理事)をパネリストとしてお招きし、大西昭郎先生(東京大学公共政策大学院 特任教授)と林良造先生(明治大学国際総合研究所 所長)が共同モデレーターを務められました。
人口の高齢化や慢性疾患対策の観点からは、求められる医療について変容を求められています。それは日本に限らず、世界各国で直面している課題です。研究開発についてもグローバルな規模で、アンメットメディカルニーズ、ターゲット疾患、予算規模、進捗や成果について議論される機会が重要になってきており、今回のシンポジウムはまさにそのような機会のはじまりといえるでしょう。

【まとめ】
産業界、アカデミア、そして研究機関における研究の在り方については、オープンイノベーションや産学連携といったキーワードのもとで、グローバルに新たな展開がはじまりつつあります。日本医療研究開発機構を中心に、さまざまなアクターが一緒に研究開発を推進できる環境、患者中心の研究開発、グローバルな研究開発の実現に向けての議論をさらに深めてゆきたいと思っています。
                                      [photo:今 祥雄]

「医療分野の研究開発に関する新たな取り組み」に関する資料は
下記のホームページをご覧ください。
http://pari.u-tokyo.ac.jp/event/smp150818.html
 


医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。



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東京大学政策ビジョン研究センター
医療機器の開発に関する政策研究ユニット
アカデミック・コミュニケーション
2015年7月「Next Medical Device Innovation」
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉


●データの開示と使いやすいデータセットの意義

【Global Topics】

「open FDAから1年」
米国の医療関連製品の規制当局であるFDAでは、2014年6月から「open FDA」という試みが進められています。早いもので、その活動から1年が経とうとしているところです。「open FDA」という取り組みは、技術の進歩に応じて、より簡単にFDAの公開情報にアクセスし、そのデータをより簡単に解釈できるようにするかが目的で、ホワイトハウスの命令ではじまりました。FDAが持つ公開可能な生のデータを加工できるようにすれば、さまざまなソフトウェアによってよりアクセスしやすく、解釈しやすくなるのではないか、ということです。たとえば、医薬品の副作用情報、医療機器の不具合情報、取り締まり事例、医薬品の添付文書(警告記載)のデータなどが、公開の対象となっています。
日本でも、行政機関の持つデータが少しずつ利用しやすくなってきました。オープンガバメントの方向性は、研究をしていても日々実感するところです。
しかしながら、医療分野のデータの中にはアクセスはできても、なかなか探し難かったり、統計処理が難しい形で提供されているデータも少なくありません。
FDAがopen dataを進めているから日本も進めるというのではなく、何のためにどのようなデータを公開していくのかという真摯な議論が大切ではないかと思われます。

Resource: Michael Mezher, One Year Into 'openFDA', July 22, 2015, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/07/22/22908/One-Year-Into-openFDA/

【Domestic Topics】

「栄養改善事業の国際展開の検討が進行中」
2015年7月10日、政府は、第3回栄養改善事業の国際展開検討チームを開催しました。この会合は、2014年に英国の呼びかけで始まった、2020年に向けた栄養改善の国際的な潮流を捉え、栄養改善の取組を実施・強化するために開かれているものです。このような動きの背景として、2014年6月に国際コンパクト「Global Nutrition for Growth Compact」や日本・英国/日本・ブラジルによる共同声明において、栄養改善の取り組みを強化することが確認されています。
当然ながら、栄養改善は医療と大変近いところにあります。栄養改善は、世界の健康増進に資することはいうまでもありませんが、日本の医療の国際展開にもつながる可能性があります。すなわち、栄養の改善によって健康の維持増進を図り、予防や先制医療をベースとしたアンメッドメディカルニーズの充足によって経済成長につなげることができます。さらに、世界の栄養不良対策に資する日本の包括的な国際援助のアプローチとして大きな意義があります。
医療機器ユニットでは、医療機器そのものではないですが、医療機器の周辺領域として栄養分野についても注目していきたいと思っています。

Resource: 内閣官房健康・医療戦略室「栄養改善事業の国際展開検討チームの設置について」(2015年3月、7月に一部改正), available at http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/kokusaitenkai/eiyo_dai3/siryou01.pdf


【A Selected Activity from the University of Tokyo】

「アジアにおける医療政策に関する議論の進展」
2015年6月5日-6日の2日間、世界的に著名なフランスのビジネススクールであるESSECのAsia-Pacific支部が主催したカンファレンス「Third Health Policy Decision Makers Forum Asia-Pacific at ESSEC Asia-Pacific」に参加しました。このカンファレンスでは、世界の医療が変容を続けているところ、医療政策の担当者と産業界がどのようなマインドを持って今後戦略を構築していくべきかが議論されました。以下では、その内容を簡単にお伝えいたします。

1日目は、マクロ的な視点で医療の変容に対して政策立案担当者と産業界がどのような考えを持っているのかが示されました。フィリピン保健省の事務次官は、医薬品が全医療費の半分を占めていることから、どうやって薬剤費を減らすかが重要であると明言しています。他方、産業界側(特に製薬企業)からは、各国の経済発展、アンメッドメディカルニーズ、医療保険制度、政治情勢などを踏まえて、適切な製品を導入するように考えており、自社の利益ばかりで製品導入を進めているわけではない、という指摘がありました。また、高齢化の問題はアジア各国で深刻で、従来型の医療提供体制ではコストの観点からはもちろん、アクセスやクオリティの面からも不適切な状況が生まれており、モバイルヘルス(デジタルヘルス)等を活用した新しい医療提供体制が模索され始めています。マラリアをはじめとする「顧みられない熱帯病」の開発は、途上国だけでなく蔓延した場合の影響を考慮すれば先進国にとっても極めて重要ですが、開発支援と上市支援の両面について、世界基金、世界各国の資金、民間財団からの助成が不可欠であり、産業界側も1社ではなく企業協力ないし連携を通じて医薬品の開発と上市を進めているとのことです。医薬品については、臨床試験がグローバルに展開されており、とりわけ中国における臨床試験のプレゼンスは大きくなっています。中国では、利益相反の問題等に対応すべく検討や改善が急ピッチで進められている模様でした。産業界からすれば、製品の導入において各国それぞれの状況分析を進めるとはいえ、まずはより大きな規模の市場や医療現場としてアジアを捉え直して医薬品開発等が進められ始めていることがわかりました。

2日目は、3つのワークショップが同時に開かれた後、総合セッションでまとめが行われました。発展途上国におけるよりよい医療アクセスの実現に向けた産業政策の在り方というワークショップでは、先進国と同様にアクセス、コスト、クオリティで医療を定義し、その改善に努めるという方向性が十分に機能しないのではないかという点と、医療従事者や政策立案担当者に対する教育に産業界の支援が必要だという点、さらには産業政策について政府と産業界の対話が重要であるという点が特に挙げられました。要するに、発展途上国におけるニーズをどのように把握し、産業政策の形で具現化するのかが問われており、政府と産業界の対話や教育の重要性を再認識する契機となりました。最後のセッションでは、イノベーションの価値をシェアすることが重要であるという結論が示されました。患者、医療制度全体、そして各企業がそれぞれ裨益できるようなイノベーションモデルが今後の医療の発展に欠かせない、ということです。企業にとっては自社の利益を上げる際に、患者の健康への貢献や医療制度全体の健全性・持続可能性を高めることで報酬を得られるようなインセンティブが、「価値のシェア」にとっては欠かせないでしょう。



医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。



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●欧州理事会で新しい医療機器規則の導入に向けた一般アプローチについて承認
●健康医療戦略ラウンドテーブルの開催(4月と6月)
                                         [photo:慎 芝賢]

【Global Topics】
「欧州における新しい医療機器規制の導入」
欧州では、2012年以降長らく議論され続けてきた新しい医療機器規制の導入について、2015年6月19日に欧州理事会(European Council)がようやく承認しました。欧州では、2012年から医療機器と体外診断用医療機器について新しい欧州規則(案)が検討されており、2014年4月には欧州議会で提案が採択されていました。欧州議会での採択後、およそ2年にわたって規則(案)の文言について欧州議会と欧州理事会の間で検討が加えられていたとのことです。
欧州理事会は承認を与えるにあたって、第三者認証、市販後調査、臨床研究・臨床試験の監督を強化する形で修正を加えています。具体的には、以下のとおりです。
①各国による第三者認証機関の監督強化、第三者認証機関による抜き打ち検査
②リスク分類と機器の特性に応じて適切な市販後調査の強化
③医療機器の臨床研究・臨床試験における被験者保護の強化

業界からは歓迎の面と規制強化に対する懸念の両方の声が向けられています。
欧米でも医療機器向けの規制改革が続けられており、そこではアクセスを高めると同時に患者さんを危険から守る方法が模索されています。日本でも、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律が成立した後の改革について議論が期待されます。
Resource: Michael Mezher, A Step Forward for New EU Medical Device Legislation, June 22, 2015, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/06/22/22737/A-Step-Forward-for-New-EU-Medical-Device-Legislation/

【Domestic Topics】
「ゲノム医療の実現に向けて」
2015年6月17日、政府では第3回ゲノム医療実現推進協議会が開催されました。この会議では、はじめて「ゲノム医療実現に向けた現状認識と求められる具体的な取組(案)」が示されています。ゲノム医療実現推進協議会では、ゲノム解析が基礎科学の段階を経て、医療において、遺伝子情報を利用した実利用に向けた段階に突入しつつある(例: 発症予測、予防、診断、最適な薬剤投与量の決定、新たな薬剤の開発)という現状認識に立ち、国における総合的な取り組みの強化が必要とされています。個別化医療の推進のためには、ゲノム医療全般のインフラ整備が欠かせません。医薬品のみならず医療機器産業にとっても重大な影響を及ぼしうるゲノム医療の行方について、今後も注目していきたいと思います。
Resource: 内閣官房健康・医療戦略室・文部科学省・厚生労働省・経済産業省「資料5:求められる今後の取組に関するこれまでの論点整理(案)」第3回ゲノム医療実現推進協議会(2015年6月17日), available at http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/dai3_gijisidai.html

【A Selected Activity from the University of Tokyo】

(1)「マクロヘルスデータを通じた医療の質の向上」
医療機器ユニットは、2015年4月10日に開催された「第7回健康・医療戦略ラウンドテーブル:マクロヘルスデータを通じた医療の質の向上」の企画運営を行いました。
経済協力開発機構(OECD)のヘルスエコノミストである村上友紀先生は、基調講演において、大変有名なOECDにおけるマクロヘルスデータの収集と分析がどのようなものかを話した後、最新の調査結果、OECDの分析で何ができて何ができないかについて示し、最新の分析として高齢化の影響や医療の質、そしてSHA(いわゆる、システム・ヘルス・アカウント)に言及されました。村上先生によれば、OECDにおけるマクロヘルスデータの収集や分析が長い歴史のもと、各国政府の協力と支援があってはじめて洗練されたプロダクトとなっています。
他方、明治大学国際総合研究所では、政府系の受託研究を数年にわたって実施しており、そこではASEAN地域におけるマクロヘルスデータの分析と収集が調査対象となっています。この調査は、先進国を対象とするものではなく、OECDの調査とは決定的に異なっており、また、調査の項目が数値的なものだけでなく、薬事制度や保険制度などの具体的な内容まで含まれています。そのため、OECDの調査や分析と比較しても各国間の比較をする際には相当の困難を要するのが実情です。
村上先生が残した知見として重要なのは、各国比較によってベストプラクティスの探求が進み、保健システム自体の強化が期待されうるという点です。
今後、医療機器ユニットでは、今回村上先生から示されたOECDの知見を踏まえて、着実に保健システムの強化に資する調査・分析を進めてゆきたいと考えています。
                                       [photo:慎 芝賢]

(2)「アメリカ医療保険改革法から学べること」

医療機器ユニットは、2015年6月26日に開催された第8回健康・医療戦略ラウンドテーブルの企画運営を行いました。今回は、明治大学国際総合研究所客員研究員であり、外交問題評議会フェローのジェニファー・フリードマン先生をお招きして、米国医療保険改革法における医療の質の向上について基調講演をしていただき、その後でパネルディスカッションを開きました。
2010年に医療保険改革法を可決成立させたアメリカ合衆国では、皆保険の実現に向けてさまざまな改革が進められていますが、日本においてその改革の本質はあまり理解されていません。もっとはっきりいえば、日本ではアメリカ合衆国で進められている改革が誤った形で報道されており、今回のワークショップは、その誤解を解くとともにアメリカ合衆国で進められている改革のうち、特に医療の質の向上に着目して日本にとっての示唆を得ようとするものでした。
フリードマン先生は、基調講演においてアメリカ合衆国における医療保険法の改革が日本にとっても意味がある試みであることを示し、改革の具体的な内容について簡潔に説明しました。すなわち、日本は、世界で最も高齢化が進んでおり、高齢化と医療技術の進歩によって医療費は増加傾向にあります。医療保険や医療提供体制を持続可能なものにする見地から、医療費の適正化が大きな課題となっており、入院日数の短縮、病床数の規制強化、ジェネリック薬の利用促進などさまざまな改革が進められているところです。
他方、アメリカ合衆国では、医療保険改革法によってマーケットメカニズムを最大限に駆使しながら皆保険制度を実現しつつ、医療費の適正化と医療の質の向上を目指すための施策が講じられてきました。皆保険を所与の前提とすれば、残るは医療費の適正化と医療の質の向上を両立させることになりますが、そのために何ができるのかという命題は、簡単なようで実のところ極めて難しいとのことです。
アメリカの医療保険改革では公的医療費の削減を推し進める一方、医療の質を維持し高めるインセンティヴが新たに導入されており、医療の質の計り方についても度重なる議論とスキームの設計がなされました。提供される医療サービスの量ではなく、医療の質の向上と診療報酬等のインセンティヴを直接的に結びつける試みこそ、アメリカ合衆国が進めている改革の骨子になります。具体的にいえば、プライマリーケアにおける予算一括支払いとアウトカム連動型のボーナス支払いや、診療報酬のGDP連動キャップ撤廃と質の向上に基づく補正加算、さらには複数医療機関、支払機関、医療提供者が協力して医療の質を保ちながら医療費を削減した場合にボーナスが支給されるアカウンタブルケア・オーガナイゼ―ション(ACO)というスキームなどが例示されました。
                                      [photo:伊ケ崎 忍]




医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。



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●米国では新しい連邦法案「21st Century Cures Act」が下院委員会で提出
●神戸医療産業都市の視察と意見交換

【Global Topics】
「患者中心の研究開発の推進に向けて」
アメリカでは、2015年5月に連邦議会下院のエネルギー・通商委員会で「21st Century Cures Act」が提出されました。この法案は、21世紀における治療法の発見、開発、臨床現場への導入を迅速化するためのものです。この法案は、医薬品向けのように報道されていますが、実際には医療機器にも適用される包括的なものです。
①NIHへの予算措置を5年間で100億ドル(約1.24兆円)まで増額
②FDAへの予算措置として5年間で5億5,000万ドル(約682億円)まで増額
③市販前の臨床試験の効率化
④治療効果を証明するためのバイオマーカーと代替指標の利用拡大
⑤非伝統的な市販前承認方法の許容
⑥医療機器については臨床試験以外のデータ(症例報告、レジストリー、ジャーナル投稿論文)を利用した承認を認めるとともに、第三者認証機関を利用した医療機器の改良も認める
⑦最小限度のリスクだけしか生み出さない臨床試験について同意原則の例外を設定

法案は、2015年9月現在、下院で可決された後、上院で審議が続いています。患者さんの経験を活用した臨床試験のさらなる簡素化と効率化を目指そうとする試みは、個別化医療の推進という観点からは当然の帰結ですが、市販前承認プロセスの変更などについては批判もあるようです。日本では、2014年12月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」が成立して以降、規制分野については大きな話題がないようですが、米国の連邦議会で審議されている新たな試みには注視していく必要があります。
Source: Toni Clarke in Washington; Editing by Bernard Orr, House committee approves bill to speed new drugs to market, Reuters, May 21, 2015, available at http://www.reuters.com/article/2015/05/21/us-usa-medicine-house-idUSKBN0O62C820150521; Jerry Avorn & Aaron S. Kesselheim. The 21st Century Cures Act — Will It Take Us Back in Time?. N. Engl. J. Med. 2015; 372:2473-2475, available at http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1506964 最新の法案については、Congress.Gov., H.R.6 - 21st Century Cures Act, available at https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/6/text

【Domestic Topics】
「切れ目のない支援について各省連携による一定の成果が示される」
2015年 5月27日、第9回の健康・医療戦略推進専門調査会が開催され、各省連携によって一定の成果が上がっていることが示されました。資料3:「各省連携による主な成果(平成26年度)」6頁によりますと(availableathttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/tyousakai/dai9/siryou3.pdf) 、2014年10月末に「医療機器開発支援ネットワーク」が設立され、相談件数は664件、このうち伴走コンサルは184件にも上ります。医療機器の開発において、部材供給等の裾野が広がり、販路拡大に関する相談も寄せられていることは、これまでの関係各省の政策が着実に研究開発分野の支援として具体化される段階に入ったことを感じさせます。

【A Selected Activity from the University of Tokyo】
「神戸医療産業都市の視察」
医療機器ユニットは、2015年 5 月 19 日(火曜日)に神戸医療産業都市を視察し、関係者と意見交換を行いました。この視察は、堀口彰様(一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ 理事)のご紹介を得て、神戸市医療産業都市・企業誘致推進本部などの多大なご協力を得て、日本における最大規模の医療クラスターの現状と展望について調査させていただきました。大まかなスケジュールは、下記のとおりでです。
●理化学研究所計算科学研究機構 AICS(スーパコンピューター京の見学)
●神戸市医療機器開発センターMEDDEC(手術室・ラボで豚やミニブタを使った動物実験・トレーニングが可能な施設を見学)
●神戸キメックセンタービル KIMEC、10階展望・全体俯瞰(神戸市医療産業都市の全体像として中核病院、主要企業の確認)
●理化学研究所多細胞システム形成研究センターCDB(再生医療の最先端の研究機関)
●神戸キメックセンタービル KIMEC(締めミーティング・総合質問)

医療クラスターは、整備されたインフラのもとで絶え間ない研究開発と臨床現場への橋渡しが行われることにより、さらなる発展を遂げていくことができます。神戸医療産業都市の例を調査することで、日本における医療機器開発のエコシステムの在り方についてさらに検討を深めることができました。堀口彰様をはじめとして、今回の調査を支援して下さった関係者の皆様方に改めて厚くお礼申し上げます。



医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。


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東京大学政策ビジョン研究センター
医療機器の開発に関する政策研究ユニット
アカデミック・コミュニケーション