2016年3月24日木曜日

2016年3月「Next Medical Device Innovation」臨時号
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉

こんにちは。
2015年4月12日HIV予防シンポジウム開催後、10月21日に東京大学にてフォローアップ座談会を開催しました。高校生、大学生、大学院生、省庁の方々にお集まり頂き、色々なお話を伺うことができました。
ブログの中では10月27日に総括としてご報告しましたが、なぜHIVに興味を持つことになったのか、自分の周りの方との意識との違いや変化等、省庁の方のお仕事を通して感じておられることなど、とても貴重なお話を伺うことができましたので、数回に分けてご紹介させて頂きます。                          [photo:今 祥雄]


【文部科学省 文部科学省 初等中等教育局健康教育・食育課 中野様 / 鶴原様】

 
学校でのHIV授業について ◆

勉強会やシンポジウムを通して感じたことは、高校生未来会議をはじめ、高校生や大学生等のみなさんが大変いきいきとしていて言葉使いも良く、とてもしっかりしていて、また、みなさんの知識や考えが深まっていることにとても感心しました。シンポジウム当日もエイズ教育の必要性に関してご意見等がありましたが、文部科学省としては学習指導要領に基づいて教育課程の中で指導しています。特別活動等の時間で取り上げることも可能ですが、健康や安全の内容に関して何を取り上げるかは学校の判断となります。学校においてエイズ教育の充実を図ることも大切だと思いますが、併せてこのシンポジウムのような活動を続けることにより、広くエイズについての問題意識を高めてもらえたらと思っています。また広がっていくことを願っています。

◆ 日本のエイズ教育に関して -教育はワクチンとなりうる- ◆ 

文部科学省は健康課題についていろいろなところから教育の必要性を求められます。「学校で教えてもらえなかった」、「学校の教育は不十分だった」などの指摘もあります。エイズ教育に関してお話すると、エイズに関連する問題は人権の問題も含め全て保健の授業で教えられているという捉え方をされる場合が多いです。しかし、保健の授業ではエイズ・性感染症の予防について健康教育の観点から教えているのであり、人権等の内容までは扱っておりません。例えば、免疫であれば生物、人権は社会科等で教えており、いろいろな教科にまたがっています。このようなところに関連性を持たせて教えることができればもっとよいのかなと個人的には思いました。


日本の保健の学習内容は、海外と比べて決して劣っているものではないと聞いています。教育内容や教育方法は国によって様々であり、日本には日本のシステムがあります。
日本の学校で教える内容は、学習指導要領で決まっています。H14年から性感染症に関しても教えるようになりました。今回の勉強会の中で、性感染症の罹患率はH14年から減少しており、私自身も「教育というのはワクチンとなる」ということを知り、とても感銘を受けました。また、「教育の効果があらわれるのは何年も先のこととなるかもしれない」との話もありました。学校教育と併せて、それ以外の部分でも補えるものが必要だと思っています。今回のシンポジウム等は学校教育とは違うアプローチでみなさまが取り組まれたことだと思います。このような活動が学校教育とかみ合って進んでいけば、これこそ本当のワクチンとなり得るのではないかと感じました。
 
 
 
 厚生労働省 健康局結核感染症課 エイズ対策推進室 北原様】
 

◆ 現在のエイズ情報について ◆

1980年代は、エイズがニュースとして取り上げられていたため、普通に暮らしていても情報が入ってきましたが、今はあまりエイズがニュースになるということはなく、エイズのことを知らないまま過ぎていってしまうのが現状です。ニュースとして取り上げられてなくても日本で毎年感染している方がいます。このような方にとって何ができるのだろうかということを一緒に考えていくことが必要だと思っています。このシンポジウムではこの点を取り上げることができ本当に良かったと思っています。また、国というのはなかなか一人ひとりの顔が見えにくいということがありますが、このようなイベントにより若い方や雰囲気などをイメージしながら考えられるようになったことが私の中での変化ではないかと思っています。このシンポジウムによりみなさまの中に種がまかれたのではないかと思っています。参加した方がその想いを友達に話すことで理解がさらにひろがれば大変すばらしいことだと思います。



みなさんがHIVに関心を持ってもらうためには ◆

HIV感染の蔓延をとめるために厚生労働省が「興味をもちましょう」「検査へ行きましょう」と発信してもなかなか行動へとは結びつかないのが現状です。いつもとは違うアクションを起こすきっかけをどう作っていけるのかが大きな課題となっています。ある検査の啓発では、対象者を「全く興味のない人」「少し興味をもっている人」「興味がありいつ受けるか検討中の人」の3つに分け、興味のない方には恐怖遡及をしてきっかけづくり、少し興味ある方には丁寧に説明し早期発見できることのメリット感を強調、興味がある人には無料クーポン等による後押しを行うという取組があったそうです。モチベーションをどのように作るかという点では、例えば今回のように各省庁の参画や東京大学というブランド力を活かすなど勉強会等をより魅力的にして、そこに来て下さった方にきっかけがうまれるチャンスになればと思いますし、また刺激を受けた方が周りの人と想いを共有することで、周りの方にも興味をもってもらうきっかけになればと思います。 



 外務省 国際協力局 国際保健政策室 望月様】
 
エイズはどうやってくいとめられるのか◆

学生のみなさんの知識量や関心の高さに大変驚きました。議論等の中では、HIVを身近な問題として考えてもらえるようにするためにはどうしたらよいのかという目線での提言があり、またそれを他者につなげていく具体的な方法が共有されたのではと思っています。ミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、今年(2015年)9月に,国連サミットで持続可能な開発のための2030アジェンダが採択され,持続可能な開発目標(SDGs)が掲げられました。エイズ対策はMDG6のような単独のゴールではなくなりましたが、SDGsでは保健という大きなゴールの中で達成すべきひとつの目標と位置づけられ、依然として感染が蔓延している状態をくいとめることが掲げられています。私は外務省で世界エイズ・結核・マラリア対策基金という機関を担当しておりますが、この3つの病気の流行をくいとめ、困っている方々を助けるための活動を、ドナーの立場からしっかりと見て動いていけたらと思っています。しかし、どうやってくい止められるのかについては個人の知識や行動によるところも大きく、このような意見交換の場で気づきの種がまかれて、関心や知識が広がっていくことが必要だと思っています。アジェンダ2030を採択した国連サミットにおける、安倍総理のスピーチには、アジェンダの実施には「女性も障害者も若者も参加する取組が必要」と言及がありました。エイズ対策についても、誰かにしてもらうのではなく自分に何ができるのかを考えていく必要があると思います。シンポジウムや座談会等をきっかけに、国際保健や国際協力というより広い分野にも関心を持ってもらえるとうれしいです。
 
今後の活動について ◆

なぜHIVに関心を持つようになったのか、シンポジウム参加等の行動に踏み出すきっかけは何だったのか、ということを探り、そのような機会を提供してエイズへの関心を引き出すようなイベントがあれば良いのではないかと思います。
外務省からは、高校・大学の授業等で、エイズをはじめとする国際保健の課題への取組をテーマにお話をすることも可能かと思うので、ご関心のある方はご相談くださればと思います。






医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。
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