2015年9月4日金曜日

2015年7月「Next Medical Device Innovation」
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉


●データの開示と使いやすいデータセットの意義

【Global Topics】

「open FDAから1年」
米国の医療関連製品の規制当局であるFDAでは、2014年6月から「open FDA」という試みが進められています。早いもので、その活動から1年が経とうとしているところです。「open FDA」という取り組みは、技術の進歩に応じて、より簡単にFDAの公開情報にアクセスし、そのデータをより簡単に解釈できるようにするかが目的で、ホワイトハウスの命令ではじまりました。FDAが持つ公開可能な生のデータを加工できるようにすれば、さまざまなソフトウェアによってよりアクセスしやすく、解釈しやすくなるのではないか、ということです。たとえば、医薬品の副作用情報、医療機器の不具合情報、取り締まり事例、医薬品の添付文書(警告記載)のデータなどが、公開の対象となっています。
日本でも、行政機関の持つデータが少しずつ利用しやすくなってきました。オープンガバメントの方向性は、研究をしていても日々実感するところです。
しかしながら、医療分野のデータの中にはアクセスはできても、なかなか探し難かったり、統計処理が難しい形で提供されているデータも少なくありません。
FDAがopen dataを進めているから日本も進めるというのではなく、何のためにどのようなデータを公開していくのかという真摯な議論が大切ではないかと思われます。

Resource: Michael Mezher, One Year Into 'openFDA', July 22, 2015, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/07/22/22908/One-Year-Into-openFDA/

【Domestic Topics】

「栄養改善事業の国際展開の検討が進行中」
2015年7月10日、政府は、第3回栄養改善事業の国際展開検討チームを開催しました。この会合は、2014年に英国の呼びかけで始まった、2020年に向けた栄養改善の国際的な潮流を捉え、栄養改善の取組を実施・強化するために開かれているものです。このような動きの背景として、2014年6月に国際コンパクト「Global Nutrition for Growth Compact」や日本・英国/日本・ブラジルによる共同声明において、栄養改善の取り組みを強化することが確認されています。
当然ながら、栄養改善は医療と大変近いところにあります。栄養改善は、世界の健康増進に資することはいうまでもありませんが、日本の医療の国際展開にもつながる可能性があります。すなわち、栄養の改善によって健康の維持増進を図り、予防や先制医療をベースとしたアンメッドメディカルニーズの充足によって経済成長につなげることができます。さらに、世界の栄養不良対策に資する日本の包括的な国際援助のアプローチとして大きな意義があります。
医療機器ユニットでは、医療機器そのものではないですが、医療機器の周辺領域として栄養分野についても注目していきたいと思っています。

Resource: 内閣官房健康・医療戦略室「栄養改善事業の国際展開検討チームの設置について」(2015年3月、7月に一部改正), available at http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/kokusaitenkai/eiyo_dai3/siryou01.pdf


【A Selected Activity from the University of Tokyo】

「アジアにおける医療政策に関する議論の進展」
2015年6月5日-6日の2日間、世界的に著名なフランスのビジネススクールであるESSECのAsia-Pacific支部が主催したカンファレンス「Third Health Policy Decision Makers Forum Asia-Pacific at ESSEC Asia-Pacific」に参加しました。このカンファレンスでは、世界の医療が変容を続けているところ、医療政策の担当者と産業界がどのようなマインドを持って今後戦略を構築していくべきかが議論されました。以下では、その内容を簡単にお伝えいたします。

1日目は、マクロ的な視点で医療の変容に対して政策立案担当者と産業界がどのような考えを持っているのかが示されました。フィリピン保健省の事務次官は、医薬品が全医療費の半分を占めていることから、どうやって薬剤費を減らすかが重要であると明言しています。他方、産業界側(特に製薬企業)からは、各国の経済発展、アンメッドメディカルニーズ、医療保険制度、政治情勢などを踏まえて、適切な製品を導入するように考えており、自社の利益ばかりで製品導入を進めているわけではない、という指摘がありました。また、高齢化の問題はアジア各国で深刻で、従来型の医療提供体制ではコストの観点からはもちろん、アクセスやクオリティの面からも不適切な状況が生まれており、モバイルヘルス(デジタルヘルス)等を活用した新しい医療提供体制が模索され始めています。マラリアをはじめとする「顧みられない熱帯病」の開発は、途上国だけでなく蔓延した場合の影響を考慮すれば先進国にとっても極めて重要ですが、開発支援と上市支援の両面について、世界基金、世界各国の資金、民間財団からの助成が不可欠であり、産業界側も1社ではなく企業協力ないし連携を通じて医薬品の開発と上市を進めているとのことです。医薬品については、臨床試験がグローバルに展開されており、とりわけ中国における臨床試験のプレゼンスは大きくなっています。中国では、利益相反の問題等に対応すべく検討や改善が急ピッチで進められている模様でした。産業界からすれば、製品の導入において各国それぞれの状況分析を進めるとはいえ、まずはより大きな規模の市場や医療現場としてアジアを捉え直して医薬品開発等が進められ始めていることがわかりました。

2日目は、3つのワークショップが同時に開かれた後、総合セッションでまとめが行われました。発展途上国におけるよりよい医療アクセスの実現に向けた産業政策の在り方というワークショップでは、先進国と同様にアクセス、コスト、クオリティで医療を定義し、その改善に努めるという方向性が十分に機能しないのではないかという点と、医療従事者や政策立案担当者に対する教育に産業界の支援が必要だという点、さらには産業政策について政府と産業界の対話が重要であるという点が特に挙げられました。要するに、発展途上国におけるニーズをどのように把握し、産業政策の形で具現化するのかが問われており、政府と産業界の対話や教育の重要性を再認識する契機となりました。最後のセッションでは、イノベーションの価値をシェアすることが重要であるという結論が示されました。患者、医療制度全体、そして各企業がそれぞれ裨益できるようなイノベーションモデルが今後の医療の発展に欠かせない、ということです。企業にとっては自社の利益を上げる際に、患者の健康への貢献や医療制度全体の健全性・持続可能性を高めることで報酬を得られるようなインセンティブが、「価値のシェア」にとっては欠かせないでしょう。



医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。



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