2015年9月4日金曜日

2015年5月「Next Medical Device Innovation」
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉


●米国では新しい連邦法案「21st Century Cures Act」が下院委員会で提出
●神戸医療産業都市の視察と意見交換

【Global Topics】
「患者中心の研究開発の推進に向けて」
アメリカでは、2015年5月に連邦議会下院のエネルギー・通商委員会で「21st Century Cures Act」が提出されました。この法案は、21世紀における治療法の発見、開発、臨床現場への導入を迅速化するためのものです。この法案は、医薬品向けのように報道されていますが、実際には医療機器にも適用される包括的なものです。
①NIHへの予算措置を5年間で100億ドル(約1.24兆円)まで増額
②FDAへの予算措置として5年間で5億5,000万ドル(約682億円)まで増額
③市販前の臨床試験の効率化
④治療効果を証明するためのバイオマーカーと代替指標の利用拡大
⑤非伝統的な市販前承認方法の許容
⑥医療機器については臨床試験以外のデータ(症例報告、レジストリー、ジャーナル投稿論文)を利用した承認を認めるとともに、第三者認証機関を利用した医療機器の改良も認める
⑦最小限度のリスクだけしか生み出さない臨床試験について同意原則の例外を設定

法案は、2015年9月現在、下院で可決された後、上院で審議が続いています。患者さんの経験を活用した臨床試験のさらなる簡素化と効率化を目指そうとする試みは、個別化医療の推進という観点からは当然の帰結ですが、市販前承認プロセスの変更などについては批判もあるようです。日本では、2014年12月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」が成立して以降、規制分野については大きな話題がないようですが、米国の連邦議会で審議されている新たな試みには注視していく必要があります。
Source: Toni Clarke in Washington; Editing by Bernard Orr, House committee approves bill to speed new drugs to market, Reuters, May 21, 2015, available at http://www.reuters.com/article/2015/05/21/us-usa-medicine-house-idUSKBN0O62C820150521; Jerry Avorn & Aaron S. Kesselheim. The 21st Century Cures Act — Will It Take Us Back in Time?. N. Engl. J. Med. 2015; 372:2473-2475, available at http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1506964 最新の法案については、Congress.Gov., H.R.6 - 21st Century Cures Act, available at https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/6/text

【Domestic Topics】
「切れ目のない支援について各省連携による一定の成果が示される」
2015年 5月27日、第9回の健康・医療戦略推進専門調査会が開催され、各省連携によって一定の成果が上がっていることが示されました。資料3:「各省連携による主な成果(平成26年度)」6頁によりますと(availableathttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/tyousakai/dai9/siryou3.pdf) 、2014年10月末に「医療機器開発支援ネットワーク」が設立され、相談件数は664件、このうち伴走コンサルは184件にも上ります。医療機器の開発において、部材供給等の裾野が広がり、販路拡大に関する相談も寄せられていることは、これまでの関係各省の政策が着実に研究開発分野の支援として具体化される段階に入ったことを感じさせます。

【A Selected Activity from the University of Tokyo】
「神戸医療産業都市の視察」
医療機器ユニットは、2015年 5 月 19 日(火曜日)に神戸医療産業都市を視察し、関係者と意見交換を行いました。この視察は、堀口彰様(一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ 理事)のご紹介を得て、神戸市医療産業都市・企業誘致推進本部などの多大なご協力を得て、日本における最大規模の医療クラスターの現状と展望について調査させていただきました。大まかなスケジュールは、下記のとおりでです。
●理化学研究所計算科学研究機構 AICS(スーパコンピューター京の見学)
●神戸市医療機器開発センターMEDDEC(手術室・ラボで豚やミニブタを使った動物実験・トレーニングが可能な施設を見学)
●神戸キメックセンタービル KIMEC、10階展望・全体俯瞰(神戸市医療産業都市の全体像として中核病院、主要企業の確認)
●理化学研究所多細胞システム形成研究センターCDB(再生医療の最先端の研究機関)
●神戸キメックセンタービル KIMEC(締めミーティング・総合質問)

医療クラスターは、整備されたインフラのもとで絶え間ない研究開発と臨床現場への橋渡しが行われることにより、さらなる発展を遂げていくことができます。神戸医療産業都市の例を調査することで、日本における医療機器開発のエコシステムの在り方についてさらに検討を深めることができました。堀口彰様をはじめとして、今回の調査を支援して下さった関係者の皆様方に改めて厚くお礼申し上げます。



医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。


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