2015年9月4日金曜日

2015年6月「Next Medical Device Innovation」
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉


●欧州理事会で新しい医療機器規則の導入に向けた一般アプローチについて承認
●健康医療戦略ラウンドテーブルの開催(4月と6月)
                                         [photo:慎 芝賢]

【Global Topics】
「欧州における新しい医療機器規制の導入」
欧州では、2012年以降長らく議論され続けてきた新しい医療機器規制の導入について、2015年6月19日に欧州理事会(European Council)がようやく承認しました。欧州では、2012年から医療機器と体外診断用医療機器について新しい欧州規則(案)が検討されており、2014年4月には欧州議会で提案が採択されていました。欧州議会での採択後、およそ2年にわたって規則(案)の文言について欧州議会と欧州理事会の間で検討が加えられていたとのことです。
欧州理事会は承認を与えるにあたって、第三者認証、市販後調査、臨床研究・臨床試験の監督を強化する形で修正を加えています。具体的には、以下のとおりです。
①各国による第三者認証機関の監督強化、第三者認証機関による抜き打ち検査
②リスク分類と機器の特性に応じて適切な市販後調査の強化
③医療機器の臨床研究・臨床試験における被験者保護の強化

業界からは歓迎の面と規制強化に対する懸念の両方の声が向けられています。
欧米でも医療機器向けの規制改革が続けられており、そこではアクセスを高めると同時に患者さんを危険から守る方法が模索されています。日本でも、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律が成立した後の改革について議論が期待されます。
Resource: Michael Mezher, A Step Forward for New EU Medical Device Legislation, June 22, 2015, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/06/22/22737/A-Step-Forward-for-New-EU-Medical-Device-Legislation/

【Domestic Topics】
「ゲノム医療の実現に向けて」
2015年6月17日、政府では第3回ゲノム医療実現推進協議会が開催されました。この会議では、はじめて「ゲノム医療実現に向けた現状認識と求められる具体的な取組(案)」が示されています。ゲノム医療実現推進協議会では、ゲノム解析が基礎科学の段階を経て、医療において、遺伝子情報を利用した実利用に向けた段階に突入しつつある(例: 発症予測、予防、診断、最適な薬剤投与量の決定、新たな薬剤の開発)という現状認識に立ち、国における総合的な取り組みの強化が必要とされています。個別化医療の推進のためには、ゲノム医療全般のインフラ整備が欠かせません。医薬品のみならず医療機器産業にとっても重大な影響を及ぼしうるゲノム医療の行方について、今後も注目していきたいと思います。
Resource: 内閣官房健康・医療戦略室・文部科学省・厚生労働省・経済産業省「資料5:求められる今後の取組に関するこれまでの論点整理(案)」第3回ゲノム医療実現推進協議会(2015年6月17日), available at http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/genome/dai3_gijisidai.html

【A Selected Activity from the University of Tokyo】

(1)「マクロヘルスデータを通じた医療の質の向上」
医療機器ユニットは、2015年4月10日に開催された「第7回健康・医療戦略ラウンドテーブル:マクロヘルスデータを通じた医療の質の向上」の企画運営を行いました。
経済協力開発機構(OECD)のヘルスエコノミストである村上友紀先生は、基調講演において、大変有名なOECDにおけるマクロヘルスデータの収集と分析がどのようなものかを話した後、最新の調査結果、OECDの分析で何ができて何ができないかについて示し、最新の分析として高齢化の影響や医療の質、そしてSHA(いわゆる、システム・ヘルス・アカウント)に言及されました。村上先生によれば、OECDにおけるマクロヘルスデータの収集や分析が長い歴史のもと、各国政府の協力と支援があってはじめて洗練されたプロダクトとなっています。
他方、明治大学国際総合研究所では、政府系の受託研究を数年にわたって実施しており、そこではASEAN地域におけるマクロヘルスデータの分析と収集が調査対象となっています。この調査は、先進国を対象とするものではなく、OECDの調査とは決定的に異なっており、また、調査の項目が数値的なものだけでなく、薬事制度や保険制度などの具体的な内容まで含まれています。そのため、OECDの調査や分析と比較しても各国間の比較をする際には相当の困難を要するのが実情です。
村上先生が残した知見として重要なのは、各国比較によってベストプラクティスの探求が進み、保健システム自体の強化が期待されうるという点です。
今後、医療機器ユニットでは、今回村上先生から示されたOECDの知見を踏まえて、着実に保健システムの強化に資する調査・分析を進めてゆきたいと考えています。
                                       [photo:慎 芝賢]

(2)「アメリカ医療保険改革法から学べること」

医療機器ユニットは、2015年6月26日に開催された第8回健康・医療戦略ラウンドテーブルの企画運営を行いました。今回は、明治大学国際総合研究所客員研究員であり、外交問題評議会フェローのジェニファー・フリードマン先生をお招きして、米国医療保険改革法における医療の質の向上について基調講演をしていただき、その後でパネルディスカッションを開きました。
2010年に医療保険改革法を可決成立させたアメリカ合衆国では、皆保険の実現に向けてさまざまな改革が進められていますが、日本においてその改革の本質はあまり理解されていません。もっとはっきりいえば、日本ではアメリカ合衆国で進められている改革が誤った形で報道されており、今回のワークショップは、その誤解を解くとともにアメリカ合衆国で進められている改革のうち、特に医療の質の向上に着目して日本にとっての示唆を得ようとするものでした。
フリードマン先生は、基調講演においてアメリカ合衆国における医療保険法の改革が日本にとっても意味がある試みであることを示し、改革の具体的な内容について簡潔に説明しました。すなわち、日本は、世界で最も高齢化が進んでおり、高齢化と医療技術の進歩によって医療費は増加傾向にあります。医療保険や医療提供体制を持続可能なものにする見地から、医療費の適正化が大きな課題となっており、入院日数の短縮、病床数の規制強化、ジェネリック薬の利用促進などさまざまな改革が進められているところです。
他方、アメリカ合衆国では、医療保険改革法によってマーケットメカニズムを最大限に駆使しながら皆保険制度を実現しつつ、医療費の適正化と医療の質の向上を目指すための施策が講じられてきました。皆保険を所与の前提とすれば、残るは医療費の適正化と医療の質の向上を両立させることになりますが、そのために何ができるのかという命題は、簡単なようで実のところ極めて難しいとのことです。
アメリカの医療保険改革では公的医療費の削減を推し進める一方、医療の質を維持し高めるインセンティヴが新たに導入されており、医療の質の計り方についても度重なる議論とスキームの設計がなされました。提供される医療サービスの量ではなく、医療の質の向上と診療報酬等のインセンティヴを直接的に結びつける試みこそ、アメリカ合衆国が進めている改革の骨子になります。具体的にいえば、プライマリーケアにおける予算一括支払いとアウトカム連動型のボーナス支払いや、診療報酬のGDP連動キャップ撤廃と質の向上に基づく補正加算、さらには複数医療機関、支払機関、医療提供者が協力して医療の質を保ちながら医療費を削減した場合にボーナスが支給されるアカウンタブルケア・オーガナイゼ―ション(ACO)というスキームなどが例示されました。
                                      [photo:伊ケ崎 忍]




医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。



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