2015年9月4日金曜日

2015年8月「Next Medical Device Innovation」
〈東京大学政策ビジョン研究センター医療機器の開発に関する政策研究ユニット(以下、医療機器ユニットとする)は、マンスリー・ニュースレター「Next Medical Device Innovation」で国内外のニュース、および、活動報告を皆様にお届けします。〉


●医療分野の研究開発に関する新たな取り組みに向けて


【Global Topics】

「FDAの2016年度版審査料の行方」 
FDAは、実のところ連邦法に基づいて市販前承認等の審査に関する費用をメーカーから徴収しており、これによって審査パフォーマンスについてはメーカーや業界、さらには連邦議会によるチェックアンドバランスが実現されている。アメリカでは医薬品については1992年、医療機器については2002年に審査料(user fee)制度が導入されました。

2016年度版の審査料は、およそ下記のようになっています。
【医薬品】
新医薬品(臨床データ付)237万4,200ドル(約2億9,000万円)※日本の約12倍
新医薬品(臨床データなし)118万7,100ドル(約1億4,700万円)
新医薬品(補足・臨床データ付)118万7,100ドル(約1億4,700万円)
【医療機器】
市販前承認 26万1,388ドル(約3,200万円)※日本の約3倍
510K(市販前届出) 5,228ドル(約67万円)

日本のPMDAでも審査等にかかる手数料が決まっていますが、単に額面だけではなく決め方や決めた後のパフォーマンスレビューの仕方、さらにはパフォーマンスの更なる改善などの方向性について、アメリカ合衆国とどこが似ていてどこが違うのかについては十分に検討する必要があるでしょう。

Resource: Michael Mezher, FDA Unveils User Fee Rates for FY2016, Aug. 4, 2015, available at http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2015/08/04/22960/FDA-Unveils-User-Fee-Rates-for-FY2016/


【Domestic Topics】

「保健医療2035シンポジウム開催される」
2015年8月24日、厚生労働省の主催により、保健医療2035シンポジウムが開催されました。急激な少子高齢化や医療技術の進歩など医療を取り巻く環境が大きく変化する中で、2035年を見据えた保健医療政策のビジョンとその道筋を示すため、国民の健康増進、保健医療システムの持続可能性の確保、保健医療分野における国際的な貢献、地域づくりなどの分野における戦略的な取組に関する検討を行うことを目的として、厚生労働省が懇談会を設けたのがこのシンポジウムにつながっています。
人々が世界最高水準の健康、医療を享受でき、安心、満足、納得を得ることができる持続可能な保健医療システムを構築し、我が国及び世界の繁栄に貢献するということがゴールに据えられている保健医療2035は、公平・公正(フェアネス)、自律に基づく連帯、日本と世界の繁栄と共生の3つを基本理念として、保健医療の価値を高める、主体的選択を社会で支える、日本が世界の保健医療を牽引する、という3つをビジョンとしています。
ビジョン実現のためのガバナンス改革にまで踏み込んだ報告書は、厚生労働省の懇談会による報告書とは思われないほど包括的かつ長期的視野に立ったものです。ひっ迫する医療財政や超高齢化社会のような難しい課題に直面していると、どうしても後ろ向きな議論に終始してしまいがちになりますが、塩崎厚生労働大臣が指摘しているように、「いかに保健医療システムの役割を発展させていくのかという観点を基本に、前向きかつ建設的に、そして何よりも創造的な議論」が今の社会では求められているように思われます。


【A Selected Activity from the University of Tokyo】

「医療分野の研究開発に関する新たな取り組み」

2015年8月18日、東京大学政策ビジョン研究センター・政策シンクネット主催国際シンポジウム「第66回GSDMプラットフォームセミナー 医療分野の研究開発に関する新たな取り組み」が開催されました。この国際シンポジウムは、医療における研究開発の新たな展開と臨床現場での研究開発などについて、その社会的な価値も踏まえながら、これらが医療をよりよいものに変えてゆく可能性について議論を深めるために開かれたものです。日米欧の産業界、大学や研究開発機関などのアカデミア、政府機関から第一人者の方々を交え、医療分野の研究開発に向けた官民協働、リサーチ・インテグリティの確保、さらには研究から実用化までのスピードアップなどについて、グローバルな視野で議論することができました。以下、開催報告として概要を説明します。


【主催と共催】
このシンポジウムは、東京大学政策ビジョン研究センターと政策シンクネットが主催し、政策ビジョン研究センター内の医療機器ユニットと政策シンクネットが協力して担当しました。共催には、医療分野の研究開発における人材育成や国際展開についても、議論が深まることを期待して、東京大学 Global Leader Program for Social Design and Management (GSDM)と明治大学国際総合研究所 (MIGA)に加わっていただきました。
【背景】
医療における技術革新は広範囲に進展していますが、その原動力となる研究開発においても大きな変革が起きつつあります。具体的にいえば、個別化医療や精密医療といった観点から、個人に由来するいわゆる「ビッグデータ」を取り扱う研究やそれらの活用が盛んになってきました。また、医療の分野での研究開発に極めて大きな役割を果たす臨床研究や治験についても、その効率性や効果の観点や、リサーチ・インテグリティさを確保する観点から検討が加えられつつあります。欧米では、透明性を高めて被験者を保護するとともに、より効果的で効率的な実施に向けた議論が急ピッチで進行中です。オープンイノベーションや産学連携といったキーワードのもとで、産業界、アカデミア、そして研究機関における研究の在り方について、新たな展開が始まりつつあります。さらに日本では、2015年4月1日付で国立研究開発法人日本医療研究開発機構が発足しました。日本版のNIHを念頭に置いて長らく議論され、ようやく設立された日本医療研究開発機構の発足は、日本における医療分野の研究開発の行方を大きく変える第一歩といえるでしょう。

【第1セッション「日本における新たな取り組み」】
末松誠先生(日本医療研究開発機構 理事長)は、日本医療研究開発機構のミッションと展望と題して、難病治療のインフラストラクチャー整備等について話されました。
松本洋一郎先生(理化学研究所 理事)は、基礎研究から臨床研究へと題して、日本では臨床研究が比較的少ないこと、日本医療研究開発機構への期待として、治験実施側のネットワークを構築し、効率性、リサーチ・インテグリティ、競争力を強化すること、さらには理研でトランスリレーショナルサイエンスを推進し、日本医療研究開発機構の役割に貢献していくことについて言及しました。
永井良三先生(自治医科大学 学長、政策ビジョン研究センター 顧問)は、臨床現場での研究開発と題して、東京大学における産学連携が可能になるまでの歴史的経緯や今後の展望について話されました。
森和彦先生(厚生労働省医薬食品局審査管理課 課長)は、医療・医薬品行政と研究開発と題して、医薬品開発に多額の資金が必要になっていることをベースにして、先駆け審査指定制度、クリニカル・イノベーション・ネットワーク構想、レギュラトリーサイエンス・イニシャティブの3つについて詳しく話されました。
パネルディスカッションでは、パネリストに江崎禎英先生(経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課 課長)と松田譲先生(文部科学省革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)ビジョナリーリーダー、 公益財団法人加藤記念バイオサイエンス振興財団 理事長)を加えて、モデレーターの鈴木寛先生(東京大学公共政策大学院 教授)がリサーチ・インテグリティ、人材育成、難病対策、Under the one roofで産官学の協力、個別化医療などのキーワードで新しい医療が生み出されうる環境の整備について議論を深めました。


【第2セッション「臨床研究をめぐる国際的な潮流」】
David Epstein 先生(Pharmaceuticals Division Head, Novartis AG)は、医療活動の変化とイノベーションと題して、イノベーションの必要性、ノバルティスのイノベーションに対する取組み、デジタル技術の可能性、患者さんのためにという諸点について話されました。
野木森雅郁先生(アステラス製薬 代表取締役会長)は、オープンイノベーションの加速に向けと題して、創薬環境の変化、創薬連携の必要性、オープンイノベーションを活用した事例、新しい産学官連携に向けて官学への期待、業界への期待を話されました。
中尾浩治先生(テルモ 代表取締役会長、一般社団法人医療機器産業連合会 会長)は、医療機器開発のフロンティアと題して、医療機器の特性を踏まえた事業化とイノベーション教育の重要性について話されました。
パネルディスカッションでは、Bruce Goodwin先生 (President, Janssen Pharmaceutical KK, Vice Chair, PhRMA)に加わっていただき、モデレーターの宮田満先生(日経BP社 特命編集委員)が患者中心の研究開発の在り方や、リサーチ・インテグリティの啓発、産学連携の強化、高齢者医療などの日本のポテンシャルについて議論をリードしました。


【第3セッション「全体の総括、今後の展望」】
武田俊彦先生(厚生労働省大臣官房審議官(医療保険担当))は、医療分野の研究開発の展望と題して、厚生労働省の中長期的視点に立った社会保障政策、研究開発の促進、保険償還価格におけるイノベーションの評価の3点について話されました。
まとめのパネルディスカッションでは、武田俊彦先生(厚生労働省大臣官房審議官(医療保険担当))、江崎禎英先生(経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課 課長)、鈴木寛先生(東京大学公共政策大学院・教授)、David Epstein先生 (Pharmaceuticals Division Head, Novartis AG)、Bruce Goodwin先生 (President, Janssen Pharmaceutical KK, Vice Chair, PhRMA)、松本洋一郎先生(理化学研究所 理事)をパネリストとしてお招きし、大西昭郎先生(東京大学公共政策大学院 特任教授)と林良造先生(明治大学国際総合研究所 所長)が共同モデレーターを務められました。
人口の高齢化や慢性疾患対策の観点からは、求められる医療について変容を求められています。それは日本に限らず、世界各国で直面している課題です。研究開発についてもグローバルな規模で、アンメットメディカルニーズ、ターゲット疾患、予算規模、進捗や成果について議論される機会が重要になってきており、今回のシンポジウムはまさにそのような機会のはじまりといえるでしょう。

【まとめ】
産業界、アカデミア、そして研究機関における研究の在り方については、オープンイノベーションや産学連携といったキーワードのもとで、グローバルに新たな展開がはじまりつつあります。日本医療研究開発機構を中心に、さまざまなアクターが一緒に研究開発を推進できる環境、患者中心の研究開発、グローバルな研究開発の実現に向けての議論をさらに深めてゆきたいと思っています。
                                      [photo:今 祥雄]

「医療分野の研究開発に関する新たな取り組み」に関する資料は
下記のホームページをご覧ください。
http://pari.u-tokyo.ac.jp/event/smp150818.html
 


医療機器ユニットは、研究開発、薬事規制、および保険収載・償還を中心に、多岐にわたるグローバルな医療機器に関する政策研究を世界中に提供している有数の研究ユニットです。2009年に発足した日本で最初の大学における医療機器に特化した政策研究ユニットであり、東京を本拠地として、ワシントンD.C.やロンドン、その他の世界の主要な拠点とのネットワークを擁しています。



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